Little AngelPretty devil 
       〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “寒のうち”
 



昨年は平成最後の年だとあちこちで言われていて、
しかもそれをどう後押ししたいものか、
夏の初めからこっち、何ともとんでもない日本列島だったりもして。
大阪では初というほどの地震があったと思ったら、
山陰地方で記録的な大雨が降ったり、
そうかと思やこちらも記録的、いやいや災害級の猛暑となり、
政府筋が“迷わず冷房使ってください”と呼びかけてたら、
北海道で大きな地震が起きて。
それで肝が冷えたかと思や、
今度は毎週末を狙ったように結構でっかい台風が押し寄せるわ、
巨大タンカーが押し流されたそのまま
海上空港への架橋がえぐられて文字通りの孤島化するわ。

 「秋は秋で、いつもでも暑いかと警戒してたら、結構台風が来まくってたしなぁ。」

そうそう、今年は記録的な数が上陸してたというし、
上陸する前から前線くすぐってたのもいたし。
災害以外にも色々なことがありすぎて、
平昌五輪なんて今年のこととは思えないほど遠い話って気がするものね。

 「…で、いつまでお喋り続けんだ? あんた。」

というか、平安時代の京の都の人間との会話へ
“冷房”とか“タンカー”とか出してきてどうすんだと言いたげに、
日頃からもそんな角度の眉を困ったようになお下げる黒の侍従様の装束は、
随身用の筒状の狩袴に、小袖と衵を重ねた平常着。
外部の人の目があるところではもうちょっと着込むのが習わしだが、
自宅でもある屋敷の中なので、
動きやすさ優先とばかり、防寒以外は気を遣わないいでたちでおり。
それは防寒用なのか、羊の毛を織った“すとぉる”という肩掛けを手にしていて、
まださほどではないながら、それでも冬の寒さの中、何処か外へとお出掛けして来た様子。
そそくさと場外へ退いた もーりんらしいと察し、
やれやれと小さく息をつくと、
幾つかの部屋の前を繋ぐように貫いて 濡れ縁のように伸びる板の間の廊下を歩み出す。
片側に冬枯れした庭を望める回廊は、
あちこちの蔀も降ろしてあっての風を入れない冬仕様。
そんな回廊の端、春以降ならば角部屋で日当たりも良かろう大広間は、
蔀はほどほどながら御簾がしっかと下ろされており、
そういやこの屋敷の主人さまは、暑さには強いが寒いのはちと苦手だったなぁなんて、
思い出しつつ御簾の裾をひょいと掻き上げれば、

 「寒いっ、とっとと閉めろっ。」

罵声と共に鉄瓶の下へ敷く小さめの円座のような物が飛んで来て、
おっと〜と顔の前で受け止めれば、次には脇息も飛んできた。
相変わらず物を投げるのは神技ばりに正確で、
両の手へ飛来物を受け止めて塞がったまま、
何をまた機嫌が傾いでいるものかと小首を傾げた蜥蜴一族の総帥殿。
こちらの返事も待たず、わしわしと
なんだか荒れた足取りでとっとと部屋の奥へ下がってしまった主を追い、
広間の奥向き、ずぼらな主様が寝床にしている一角へと歩みを進めれば、
几帳で囲うたそこは随分とヌクヌク暖かい。
床に刳り開けた炭櫃の他に、
手あぶりのそれだろう、灰をぎっちりと詰め込んだ堅木の火桶も寄せており。
この冬はまださほど冷えちゃあいなかろに、なんてまあ用意の良いことよと見回せば、
どさりと床の付いた茣蓙に腰を下ろし、

 「こんなもんじゃあ温めたって知れてんだよ。」

そうと言ってこちらを見据える。
一応は明かりの燭が灯されてあって、奥向きでもそれなり見通しは利く。
人の子である蛭魔の側は知らぬが、葉柱はそれなり夜目も利くので、
板戸や蔀を立て込めた奥まった一角でも何がどうあるかは見えており。
金茶色の虹彩を据えた切れ上がった双眸をやや眇めて、むうとしかめっ面をしている主人様。
一応は衵や小袖を重ねてまとっており、
肩には葉柱が手にしているそれより厚手の“すとぉる”を掛けているものの、

 「…もしかして俺が出掛けてたんで寒いって言いたいのか?」
 「そんくらい察っせ。」

相変わらずに傲慢な言いようだけれど、まあ回りくどく言われるよりはましだろう。
それに、

 「しょうがねぇだろうよ。係累の無事を見て回るのは長の役目だ。」

これもまたこのお話ではおなじみ、
蜥蜴一族の間違いなく長の子息として生まれたが、
季節外れだったせいか この季節になっても冬眠したくならない総帥殿。
本来の長である兄様が、
唐だか天竺だかへ龍になるのだと期限のない修行に出てしまったその後を守りつつ、
この時期は一人で 他の仲間らの眠るあちこちを回って無事かどうかを確認しており。

 「俺が結界張ってんだ。しょむない輩が荒らすはずねぇだろうがよ。」

俺様の咒が信用ならんのかと、そっちへもご不満を盛り上げかかるが、
すたすた歩み寄ってくる存在自体の行動へは目くじら立てずにいるようだし。
片膝立ててという挑発的な座りようをしていたものが、

 「何だ何だ、こんなぬくいとこにいてなんか冷えてねぇか?」

すいと伸ばされた大きめの手のひらが頬に当てられ、
てっきり温まりすぎての眠くて不機嫌なのかと思いきや、
髪や頬が存外冷えているのにおやまあと目を見張ったそのまま、
傍らへ慣れた様子で腰を下ろすと、自身の懐へと相手を掻い込む手際の良さよ。
外気に当たっていたすとぉるは剥いだので触れても冷たくはなかろうがと、
その痩躯をすっぽりと掻い込めば、

 「…うっせぇな。雪でも聞こし召さねぇかと、時々空を見上げてただけだ。」

一応は天文気象も担当だからということか、そんな言いようしながらも。
ガキみたいな扱いしやがってとぶつくさ言うのは辞めないままながらも。
ふんと強めに鼻を鳴らし、不貞腐れているかのような吐息をつきつつも。
その頬を頼もしい胸元へと伏せると、
相手には見えないよう、小さく小さく笑った陰陽師様だったりするのである。




 
     〜Fine〜  19.01.17


 *触れてませんが、昨年はアメフト界も震撼させられましたよね。
  冗談抜きに愛楯が検索しやすかったというか、
  アニメ動画が結構上がってたというか、
  微妙な余波があったように思います。

  それはともかく、
  書いても子ギツネさんとか瀬那くんばかりでしたが、
  久々にお師匠様と葉柱さんのご登場です。
  そして相変わらずにツンデレですよ、お師匠様。
  総帥様の冬の孤独を知っているからこそ、
  何かしてやりたいけど、判りやすいことするのは癪で。
  今か今かと戻って来るのをそわそわ待ってたから頬も冷たかったのを誤魔化して、
  何かまるで我儘な猫みたいなお師匠様ですが、
  他では威容あふれる意地悪全開だから相殺されているんじゃないかと…。

i-nanten.jpg めーるふぉーむvv 

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